木蓮から始まったコーシャハイム千歳烏山の花の季節はいよいよ終わりを迎えようとしています。そのフィナーレを飾るかのように甘くふくよかな金木犀の香りがこの一帯を包んでいます。あぁ、またこの季節が巡ってきました。
私事ですが、金木犀の香りをかぐたびに、古いアルバムを開くかのように私には一つの風景が思い出されるのです。
ある晴れた秋の日の小学校の校庭。次の春に小学校に上がる私は母に手を引かれて校庭を散歩していたのでした。幼い私には限りなく広く見える校庭の片隅に立つ大きな金木犀の木。
「お母さんね、この花大好き。いいにおいでしょ。キンモクセイっていうのよ」
若かりし母。秋晴れの空の下、白く光る校庭の土、濃緑の繁る葉の間にオレンジの小さな花がびっしりと。もう40年以上も前の記憶なのに少しも色あせることなく、その風景が鮮明に思い出されるのです。
嗅覚は記憶と強く結びつくといわれます。この季節、きっとご入居の方々も、この花の香りに結ばれた、たった一つの特別な思い出が時を越えてよみがえっているのではないか、そんな気がしてならないのです。